『おいす~』。仲間たちとの謎の挨拶もそこそこに、健はハイゼットバンからドラムを降ろす。 みんながパラパラギターを弾くなか、黙々とドラムセットを組み上げる健。 『そろそろ始めようか。』 メンバーの一人が言った。 サークルの時はひたすら楽しかったドラムだが、仙台でプロとして食っていこうと決めてから、リハーサルが始まるその瞬間はいつも緊張する。 ボーカルに、これくらいでいいか?とテンポを確認する。この自分の感じてるビートでカウントを始めてたら、曲が止まるまで健は走り続ける。このカウントを出すときが、一番緊張する瞬間だ。同時に、もっとも高揚感を感じる瞬間でもある。 『じゃあカウント行くよ!1、2、3、4!』
新しい車?
リハーサルが終わってハイゼットバンに楽器を積み込んでいると、なにやらメンバーが盛り上がっている。 『俺らもさ、仙台だけじゃなくてツアーとかやりたいよな!』 たしかに、このまま仙台だけで活動していても売れる保証なんてどこにもない。お金はかかるけど、勝負をかけてみてもいいのかもしれないな。仙台のライブではお客さんも入るようになったけど、全国区ではまだまだ無名のバンド。 そう思っているとメンバーが話しかけてきた。 『そのハイゼットバンさ、買い替える気ないの?』